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Skin Science Column Vol.1 ― 研究者が語る美肌の科学
みなさま、こんにちは。薬学博士の内田良一です。 私はこれまで、長年にわたり、皮膚科学やスキンケア製品の研究・開発に携わってまいりました。皮膚は私たちの身体を守る大切な器官であり、その仕組みや働きにはまだ多くの魅力と可能性が秘められています。
このコラムでは、最新の研究や私自身の経験を交えながら、肌の健康とスキンケアの大切さについて、できるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。SKINFONIA が大切にしている「ストレスと調和する肌」の考え方にも触れつつ、みなさまの毎日のケアに役立つ知識を共有できれば幸いです。
それでは第一回として、「角層」についてのお話を始めましょう。
角層 その1 ―パラダイムシフトが起きた角層の考え方―
美容・化粧品関連のウェブサイトでは、美しい写真や図とともに皮膚や美容に関する解説が掲載されています。なかには AI によって生成された内容も見受けられます。私たちは、そうした一般的な解説とは趣を変え、スキンケアの大切さをより深く理解していただくために、研究成果を含めた科学的な情報をお届けしたいと考えています。
SKINFONIA は、「ストレスと調和しながら肌本来の力を守り、美肌の維持・再現を目指す」ことを理念に、表皮・角層ケアに専心してきました。本記事では、数回にわたり角層について解説いたします。
皮膚と角層の基礎
皮膚は、表皮・真皮・皮膚付属器(毛包、皮脂腺、汗腺)から構成されています。血管やリンパ管は真皮まで通っていますが、表皮には存在しません。そのため、真皮にある血管やリンパ管を介して栄養が供給され、老廃物が除去されます。
表皮の細胞の大半(90%以上)を占めるのが ケラチノサイト(角化細胞) です。基底層で分裂したケラチノサイトは、分化を繰り返しながら核を失い、最終的に死細胞となって皮膚表面から剥がれ落ちます。これがいわゆる ターンオーバー で、周期はおよそ4週間とされています。
「役割のない層」から「重要なバリア」へ
1940年代には、角層が皮膚への物質吸収を制限する “バリア” として機能していることが報告されました。しかし顕微鏡で観察すると、角層の外側は 籠状(Basketweave)構造 を示し、水や小さな分子は容易に通過できるように見えました。そのため、当時の教科書(Rothman, Physiology and Biochemistry of Skin, 1954)には「角層は死んで剥がれ落ちるのを待つだけで、役割を持たない表皮の一部」と記載されていました。
ところが1950年代半ば、ペンシルバニア大学皮膚科の Albert M. Kligman 教授 らがヒト角層を詳細に調べた結果、角層は サランラップのように強靭な組織 であることが明らかになりました。以後、角層は物質透過バリアとしての役割を担うことが認知され、その微細構造や形成過程も解明されていきました。
「籠状構造」の誤解
では、なぜ顕微鏡で籠状の構造が観察されたのでしょうか。実は、皮膚切片を観察する際に行われる ホルマリン固定・パラフィン包埋 の過程で、人為的に籠状構造が生じていたのです。凍結切片を用いて観察すると、そのような構造は存在しません。
角層研究がもたらした転換
Kligman 教授の研究により、角層の見方は一変しました。かつては「ケラチノサイトの死骸や排泄物(垢)の集積」と考えられていたものが、現在では「ケラチノサイトは角層バリアを形成するために分化する」と理解されています。
このパラダイムシフトは、角層ケアおよび角層を生み出す表皮のケアが美肌維持に不可欠であることを示し、さまざまなスキンケア製剤の開発へとつながりました。
レチノールと Kligman 教授
角層研究と並んで、Kligman 教授は レチノイン酸の効果 を発見し、医薬品化に導いた研究者としても知られています。レチノールは医薬部外品としてシワ改善に用いられていますが、体内で変換されるレチノイン酸はさらに高い活性を持ち、シワ改善やニキビ治療薬として広く使われています。
余談ながら、1990年代半ばに私が米国研究皮膚科学会で「紫外線による角層バリア機能低下の機構」について発表した際、質疑応答で Kligman 教授から直接コメントをいただいたことを今も鮮明に覚えています。
つづく
コラム著者紹介
内田 良一(うちだ りょういち) 薬学博士
東京薬科大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科修士課程修了。国内大手化粧品会社の基礎科学研究室にて皮膚科学およびスキンケア化粧品開発に従事。1999年よりカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部皮膚科にて研究活動を開始し、研究准教授、研究教授を歴任。2021年にはハリム大学栄養学部で研究教授に就任。同年、「肌ストレス調和理論」に基づく Symfonia Cocktail™ を実現し、SKINFONIA を開発。