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Skin Science Column Vol.2 ― 角層の酸性バランスを読み解く
みなさま、こんにちは。薬学博士の内田良一です。
私はこれまで、長年にわたり、皮膚科学やスキンケア製品の研究・開発に携わってまいりました。皮膚は私たちの身体を守る大切な器官であり、その仕組みや働きには、まだ多くの魅力と可能性が秘められています。
前回のコラムでは、角層の研究史とその重要性についてお話ししました。
第2回では、「健康な角層は弱酸性である」というテーマを取り上げます。
皮膚は外界と私たちの身体を隔てる最前線にあり、その状態を健やかに保つためには、角層の「酸性度(pH)」が大きな鍵を握っています。
近年の研究により、角層の酸性環境が肌のバリア機能や保湿、さらには炎症や感染の抑制にも深く関わっていることがわかってきました。
今回は、弱酸性の角層がなぜ美肌を支えるのか、その科学的背景を紐解いていきます。
弱酸性の角層がもたらす美肌の条件
酸性・中性・アルカリ性は、水素イオン濃度(pH)によって決まります。
pH7を中性とし、それより小さい値が酸性、大きい値がアルカリ性です。
健康な角層は pH4.5〜6の弱酸性 を保っています。
生まれて間もない赤ちゃんでは酸性度がまだ低いものの、生後約2週間までに酸性度が高まり、その後は一定の値を維持します。
一方で、高齢者やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患では、角層の酸性度が上昇(中性化)し、バリア機能の低下が報告されています。
また、酸性の溶液を皮膚に塗布することで角層の酸性度を高めると、バリア機能が向上することも知られています。
つまり、弱酸性こそが健康な皮膚=美肌の条件 なのです。
最新研究が明らかにした「角層内のpH勾配」
角層はわずか約0.02mmの薄い層(サランラップの厚さは約0.01mm)ですが、その内部には驚くほど繊細なpHの違いがあります。
理化学研究所の研究チームにより、角層の下層では弱酸性、中層でより酸性度が高く、上層では再び酸性度がやや低下する という層内勾配が報告されました。
この微妙な酸性度の分布こそが、角層の健全な働きを支える鍵となっています。
角層を酸性化する4つのメカニズム
角層の酸性化には、主に以下の4つの因子が関わっています。
⚫︎脂肪酸
皮脂や細胞内の脂質が酵素で分解され、脂肪酸が生成されることで酸性化に寄与します。
⚫︎ピロリドンカルボン酸(PCA)
天然保湿因子(NMF)の一成分で、角層内の水分保持と酸性環境の形成を助けます。
⚫︎ウロカニン酸
NMF成分のヒスチジンから代謝され、角層の酸性維持と紫外線吸収に関与します。
⚫︎水素イオンの放出
顆粒層から角層に移行する過程で、ケラチノサイトから水素イオンが放出されます。
これらのプロセスが複合的に作用することで、角層の微細な酸性環境が保たれているのです。
まとめ
角層の弱酸性は、単なる化学的性質ではなく、肌の生命活動そのものを支える基盤です。
SKINFONIAはこの自然の仕組みを大切にし、肌が本来持つ「調和の力」を引き出すケアを目指しています。
次回の後編では、この酸性バランスがどのように肌バリアや炎症抑制に関わるのかをさらに詳しく解説いたします。
コラム著者紹介
内田 良一(うちだ りょういち) 薬学博士
東京薬科大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科修士課程修了。国内大手化粧品会社の基礎科学研究室にて皮膚科学およびスキンケア化粧品開発に従事。1991年 薬学博士号取得。1999年よりカリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部皮膚科にて研究活動を開始し、研究准教授、研究教授を歴任。2021年にはハリム大学栄養学部で研究教授に就任。同年、「肌ストレス調和理論」に基づく Symfonia Cocktail™ を実現し、SKINFONIA を開発。